詩人 吉野弘の世界「祝婚歌」「夕焼け」「生命は」~NHKのクローズアップ現代で特集されてふたたび話題に

吉野 弘 (よしの ひろし)

吉野 弘(よしの ひろし、1926年(大正15年)1月16日 – 2014年(平成26年)1月15日)は、日本の詩人。

没後1年 NHKのクローズアップ現代で特集されてふたたび話題に

今回、終戦直後、22歳の頃に書かれた未発表原稿が書斎から見つかった。軍国青年だったという吉野さんは、その反省から、詩人として“人のために生きる決意”を記している。

没後1年、NHKで特集が放映されるや、書店・図書館に問い合わせが殺到。いくつかの詩集は既に版元にも在庫がないとのこと。現代で生きる中で、共感し合うものがそこにある。時代は彼の詩を求めている。

ユリイカの臨時増刊号も出ました。

吉野弘の有名な詩いくつか

祝婚歌

二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで
疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい

夕焼け

いつものことだが
電車は満員だった。
そして
いつものことだが
若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
うつむいていた娘が立って
としよりに席をゆずった。
そそくさととしよりが坐った。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。
娘は坐った。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかし
又立って
席を
そのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘は坐った。
二度あることは と言う通り
別のとしよりが娘の前に
押し出された。
可哀想に
娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をキュッと噛んで
身体をこわばらせて—–。
僕は電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
何故って
やさしい心の持主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇を噛んで
つらい気持で
美しい夕焼けも見ないで。

吉野弘 動画



caay
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